100m走に関する新旧2つの漫画を同時レビューしてみる。
amazonのあらすじ
俺はトガシ。生まれつき足が速かった。だから、100m走は全国1位だった。「友達」も「居場所」も、“それ”で手に入れた。しかし小6の秋、初めて敗北の恐怖を知った。そして同時に味わった。本気の高揚と昂奮を──。100mの全力疾走。時間にすれば十数秒。だがそこには、人生全てを懸けるだけの“熱”があった。
amazonのあらすじ
日本有数の大コンツェルン・結城グループ。その後継者候補として、義父・豪太郎のもとで帝王学をしこまれる結城光16歳。そして、豪太郎の実の娘でありながら、父の援助を拒否して生きる、女子ナンバーワンスプリンター・水沢裕子16歳。まったく違う青春を選んだ二人だが、意地を張りあいつつも、やがて光と裕子は互いにひかれていく…。
何故同時レビューするのか
まず、ひゃくえむ。を読む機会があった。読み終わった感想として「こういうとこの表現、昔からむずいと思ってたんだよな~」という部分(後述)があり「そういえばスプリンターだとどんな感じだっけ?」と思い、スプリンターも読んだ。
同日に読んだので図らずも比較しながら読む形になり、どうせなら比較しながらレビューすることにした。
100m走の描写は難しい
100m走は速いか遅いかだけなので、筆者が"意図的"に勝ち負けを決めたように見えてしまいがちだからだ。
ある漫画の編集者が「素晴らしい作品ほど、巧妙に必然の産物だと思わせる」と言っていた。実際にあった話をそのまま描いただけ、と見えるくらいが良い。
逆に「この展開はこの後を考えて無理やりこうしてるように見える」とか「このキャラはこんなこと言わなそうだけど、展開的に無理やり言わされてる」みたいに、作者の顔が見える=意図的に見えるのは冷める。
100m走の話に戻る。勝敗に意外性はあって良いが、納得感がないと意図的に見えてしまう。サッカーやバスケなら技や戦術で納得感を補強できるが100m走はそこが難しい。話は逸れるが、絵や歌でもここが難しくなりがち。
※以下ネタバレ
勝敗や速さに関する納得感の作り方
両作品ともに基本は覚醒型。負けそうな前振りをしておいて、スタート直前に吹っ切れた顔になり、勝ち確フラグを感じさせるとか。走ってる最中の開き直ったような思考で覚醒したりとか。技術的な話は両方出てこない。
ひゃくえむ。で良かったシーンとして、仲間の「がんばれ」を思い出して負けるシーンがある。普通なら仲間のエール⇒覚醒⇒勝利という流れだが、逆をついて仲間のエールを思い出して安心してしまい緩むという描写だ。
逆をついてるのも良かったが、ふりも効いていた。大会の前に主人公とライバルの部活での仲間とのストーリーがある。主人公は成功しライバルは失敗していた。
成功失敗の話がそれ単体で物語として成り立っていたし、本筋の勝敗のふりになっている構造が良かった。
ライバルのキャラ
100m走という競技の単純性からライバルキャラも難しくなる。他のスポーツならポジション等で様々なキャラを出せるが、100m走はここも難しい。
ひゃくえむ。の小宮。天才主人公に対する凡庸という位置づけで最初から最後までライバルだった。ここで1つ矛盾要素を抱えていたと思う。
100m走のステージは上がっていくのに最初から最後まで同じ凡庸という位置づけの相手がライバル、という点だ。凡庸な奴が何故ステージを上がっていけるのかという問題が生じる。
特にこの作品では幼少期の対決の描写で、凡庸でも一瞬に全てをかければ速くなれるという理屈で主人公と争った。にも関わらずその後もライバル小宮は高い水準で安定的に速い。最初と最後の敵を同じにしたいという作者の"意図"を感じてしまう。
スプリンターは最初ライバルとして登場してたキャラと最後に対決したキャラが異なる。ラストは金メダルや世界新を争うステージまで行くので、最後は黒人のキャラがライバルとなっている。
こうなると、ひゃくえむ。で起きていた問題は起きないが、"中二"度という意味では少し落ちる。この辺りは過去記事の「リアル/中二」を参考にして欲しい。関係ないけど、中二病って言わなくなったね。
人生ストーリー
100m走や絵や歌などの技術戦術で差をつけれないジャンルでは勝敗の納得感として心的な部分を使うため、人生を描くことが必須となる。
対比としてサッカーやバスケ等のスポーツ漫画では、ほとんどプライベートや人生を語らない漫画もある。スラムダンクとか初期のキャラ付け時以外では練習と試合以外ほとんど描写がない。
両作品の話に戻るが、この部分で大きな違いがある。ひゃくえむ。は天才の挫折と再起を描いているが、基本は陸上に沿っている。スプリンターはもともと主人公が100m走の選手ではなく、事業でのサクセスストーリーもがっつり描いている。
どちらが優れているということはないが、自分としてはスプリンターが好み。ひゃくえむは2019年開始、スプリンターは2004年開始ということでスプリンターはかなり昔の作品だが、事業でも陸上でも成功する主人公の描き方は現代の「なろう系」を感じさせる。