漫画の感想

読んだ漫画の感想を書く。ネタバレ多少あり。twitter:hunbaba_manga

龍帥の翼 史記・留侯世家異伝

 

amazonのあらすじ

紀元前・中国……大陸は一人の男によって初めて統一される。後の世にはその本当の名より、初めての皇帝「始皇帝」の名で知られる絶対者の支配は苛烈を極めた。その支配者を討たんと、一人東に向かう男あり……名を張良(ちょうりょう)、字を子房(しぼう)という。後の天才軍師・張良を主役に据えた川原版“項羽と劉邦”堂々開幕!!

 

史実から逸脱しているからこそ面白い

本作は項羽と劉邦の戦いを、軍師張良を主人公に焼き直した作品。

全ては張良の手柄だったくらいの勢いでリメイクしている。

この作者の修羅の刻を見たことがあるなら、あの感じと言えばわかると思う。

 

史実と異なる部分が許せない人にはお勧めできない。

ちなみに自分は違う。

むしろ史実通りだと改めて本作を読む理由がない。

知っている話をどう再解釈しているか、そこが面白い。

 

面白さの分解:史実からの逸脱がもたらす効果

漫画の面白さは以下の3つの軸があると今は考えている。

それぞれの軸に沿って本作の面白さを考えてみる。

 

大きなストーリー(最終的にどうなるか)

コナンにおける黒幕は誰なのか。

ワンピースとはなんなのか。

恋愛漫画における二人は結局どうなるのか。

そういう最終どうなるのという軸。

 

この軸のおかげで数話構成の小さなストーリーがより楽しめる。

コナンが良い例。

毎回の探偵ものは正直ちゃちい。

が、少しずつ進む黒幕の話が良いスパイスになって読める。

 

さて、本作の話。

歴史なので最後は決まっている。

劉邦項羽に勝つ、さすがにここは覆せない。

となると歴史を知っている人はネタバレをくらっているようなものなのか。

この軸は機能していないのか。

そうではないと思う。

 

ここで焼き直しがいきる。

ラストをどういう解釈で迎えるのか、が気になる。

ヒーローものや恋愛ものを考えて欲しい。

基本はハッピーエンドだ(最近はバッドエンドもたまにあるが)。

ヒーローは最後にラスボスを倒す。

恋愛は最後はうまくいく。

それを予見していてもネタバレされているとは思わないだろう。

どういう風にラストを迎えるのか、が大きなストーリーだからだ。

 

小さなストーリー(数話完結の起承転結)

コナンにおける毎回の探偵もの。

バトルものなら1つの対戦。

恋愛ものなら1つのイベント等。

これが2つ目の軸と考えている。

 

本作は謎解き型となっている。

最後に解説が入るタイプ。

コナンとかはまさにそうだしバトル系でもよくある。

 

謎解き型を少し説明する(他で見た人は読み飛ばし可)

まず不利な状況が設定される。

密室殺人で犯人がわからない。

相手が強くて負けそうだ、とか。

その後に予想に反して良い結果となる。

犯人がわかったと言ったり、相手を倒したり。

最後にその解説を行う。

推理の説明や相手を倒せた理由などだ。

良い結果が起きるのと同時並行で解説が行われる場合もある。

これが謎解き型と呼ぶパターン。

 

では本作の話。

史実を知っている人は小さなストーリーも結果は知っている。

しかし謎解きの部分は焼き直されているので楽しめる。

むしろ史実を知っているので、状況説明が入ってきやすい利点がある。

 

状況説明が入ってきやすいというのは時短が好きな現代人向けに良い。

またコナンを例に出すが、設定を読むのがきついと感じたことはないだろうか。

その話にしか出てこない登場人物、密室の状況やアリバイ等を把握するのがきつい。

歴史ものはこの辺りのコストを下げれるのがメリット。

 

ストーリーと関係ない魅力(キャラや会話など)

アーニャがかわいいとかやり取りに深みを感じるとかそういう部分。

これは他の2点と比較して好みに依存する軸と思っている。

 

本作で言えばキャラや会話は他の作品と同じテイスト。

この作者の別の作品を読んだことがある人は好き嫌いを判断しやすいだろう。

ワンパターンで嫌いという人も見かけてことはある。

自分はめっちゃ好きというほどではないが、嫌いというほどではない。

 

 

※以下ネタバレ

 

 

 

 

ラストで死に際まで描くことの効果

話は変わってラストの感想。

本作では張良や黄石などは死に際まで描かれている。

これは歴史ものだからというわけではない。

この作者のやり方だ。

海皇紀という完全創作ものでも主要人物の寿命による死に際まで描いていた。

 

結構大きな特徴だと思ってる。

ほとんどの作品は完全に完結していても死に際までは描かない。

 

青春恋愛もので大人になった際の状況をちょろっと描く。

そういうアフターストーリー系とは明確に違うと捉えている。

方向性からして分けて捉えたい。

アフターストーリーは広がりを見せて夢を見せ続ける感がある。

死に際まで描くのは現実を突きつける感があるので真逆だ。

 

〇アフターストーリー系の例(G線上ヘヴンズドア)

 最終話で数年後に結婚式が行われ各キャラのその後が語られる

 

〇死に際の例(海皇紀)

 いまわの際まで描かれている

 

ここまで描かれる作品は少ない。

自分が思い出せるのは石渡先生のLOVEくらいだ。

死に際まで描かれると、自分は読後感にソワソワした感情が追加される。

その感じは嫌いじゃないけど、自分以外はどう感じてるか気になる。