漫画の感想

読んだ漫画の感想を書く。ネタバレ多少あり。twitter:hunbaba_manga

「骸積みのボルテ」から見る導入コストについて

amazonのあらすじ

全ての敵を屠るその日まで、少女は戦場の獣と化す……! 剣と怨念のバイオレンスアクション開幕! !

 

 

この作品の感想より導入コストに関する話が主。

異世界転生モノやジャンプ作品の導入コストの低さを説明。

 

 

※以下ネタバレあり

 

 

 

骸積みのボルテが3巻で打ち切り

打ち切りらしい。

最後まで読んだが内容は悪くない。

ただ、導入部分が前時代的に感じた。

 

最初の3ページでゾンビになった主人公が暴れる絵。

4ページ目からゾンビになる前の日常が始まる。

 

こういうのはよくある。

いきなり日常を描いても引きがないから非日常を予言しておく。

 

しかし頂けないのは12ページ目以降。

ここから7割くらい読者を置き去りにしていく。

 

いかにややこしいかをご理解頂くために説明する。

面倒なら飛ばしても大丈夫。

 

先に時系列を三分割で説明する。

日常⇒戦争(ここでゾンビ化)⇒ゾンビ化後

画像の右上は日常。妹と話している。

右下は主人公と妹は日常。

後ろの変な生き物(ゾンビ化して動物)は戦争。

左は戦争のシーン。帽子かぶっているのは主人公。

 

ここから数ページ戦争のシーンが続く。

そしてまた日常に戻る。

その後ゾンビ化後のシーン。

更に戦争のシーンという時系列の乱れ。

 

原稿バラバラに並べちゃったレベル。

これをするメリットがわからん。

 

バラバラに並べても話の質自体が上がるわけではない。

十分面白い話なのにもったいなかった。

 

異世界転生モノの良さは導入コストの低さ

友人がTwitterで呟いていたこと。

まじでそう思う。

 

Tiktokやら短尺動画を楽しむ若者。

漫画の読み始めがダルいという話があるらしい。

 

キャラや世界観、設定をインストールするコスト。

これが耐えれないらしい。

 

そんな中、異世界転生モノが流行った。

異世界転生モノは基本のストーリーがある。

 

共通の流れのおかげで新作を読む際の導入コストが低い。

導入部分で読むのをやめる読者をめちゃくちゃ減らせる。

後は各作品ごとの違いを見せて行けば良い。

 

ジャンプ作品の導入コスト削減ノウハウはガチ

例えば最近映画化されてたスラムダンク

最初は宮城と三井を登場させない。

 

最低限必要なライバルとヒロインだけを登場させる。

それで引いておいて徐々に登場人物を増やしていく。

 

ジャンプのスポーツ系はほぼほぼ最初メンバーが欠けている。

ハイキューとかもそうだったはず。

 

他にもあったはずだけど、そこは考察系でまとめて書く。

いずれにせよジャンプ系の導入はかなりノウハウありそう。

読んでてジャンプっぽい導入と思う事すらある。

 

まとめ

導入は昔から大事だった。

更に最近は許される導入コストが下がっている。

 

そんな中でこの作品はコスト上げすぎだった。

しかもコストを上げたことによる品質の向上がなかった。

 

以上。

 

 

マンガ大賞2023の一言感想

マンガ大賞2023。

mangataisho.com

 

一言ずつ感想を書いていく。

 

1位「これ描いて死ね」

△:ちょっと読んだだけ。

やり取りの不自然さが気になった。

 

2位「あかね噺」

△:2,3話だけ。

特に心惹かれる入りでもなくそっ閉じ。

悪くはなかったからもうちょい読めば評価変わるかも。

 

3位「女の園の星」

△:最初数話だけ。

日常系。特に刺さる部分なし。

 

3位「正反対な君と僕」

△:最初数話だけ。

悪くないけど、よくある恋愛話っぽくてやめた。

 

5位「天幕のシャードゥーガル」

ー:読んでない。

 

5位「日本三國」

〇:前に3巻くらいまで読んだと思う。

悪くないが、大きなストーリーでの引きが薄い?

 

7位「さよなら絵梨」

◎:2回読んだ。

別で感想も書いてる。

短いしお勧め。

 

8位「スーパーの裏でヤニ吸うふたり」

〇:2巻くらいまで。

大きなストーリーに引きがある。

 

9位「劇光仮面」

〇:2巻くらいまで。

癖が強い。

良いとこもあるが読みづらさが勝ってる。

 

10位「タコピーの原罪」

◎:最後まで読んだはず。

最初のインパクトという意味で◎。

ラストは好きじゃなかった覚えがある。

 

11位「光が死んだ夏」

〇:数話だけ。

しっかり覚えてないが設定が好きだったはず。

 

ルックバック/さよなら絵梨

amazonのあらすじ

自分の才能に絶対の自信を持つ藤野と、引きこもりの京本。田舎町に住む2人の少女を引き合わせ、結びつけたのは漫画を描くことへのひたむきな思いだった。月日は流れても、背中を支えてくれたのはいつだって――。唯一無二の筆致で放つ青春長編読切。

 

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私が死ぬまでを撮ってほしい――病の母の願いで始まった優太の映画制作。母の死後、自殺しようとした優太は謎の美少女・絵梨と出会う。2人は共同で映画を作り始めるが、絵梨はある秘密を抱えていた…。現実と創作が交錯しエクスプローションする、映画に懸けた青春物語!!

 

昨年バズっていた藤本タツキ先生の二作を読んだ。

正確には読み直した。

 

※以下ネタバレあり

 

 

 

タイパを意識した分量

記憶が正しいなら当初Twitterで公開されていた。

そこでバズってた印象。

切り抜きやtiktokなどが短尺が流行る昨今。

こういう分量で良い作品があるとブランド力が上がりそう。

 

読みやすく感傷を加速させるコマ使い

以下のようなコマ送りのようなコマの使い方が多い。

最初は「さよなら絵梨」が映画を題材にしてるからかと思った。

しかし「ルックバック」でも同じような表現が散見された。

 

この表現はまずスマホで見やすそう。

文字が読むのが苦手な層にも受けが良いはず。

 

それでいて、少ない分量の弱点になりそうな物語の厚みを出すのに貢献している。

単に時がたったことを1コマで表現するのではなく、実際に読者が指でスワイプすることで体験する。

 

そして大ゴマを使った時のインパクトが増える。

一石三鳥のような手法。

 

伏線と本線

両作品ともに伏線と本線がある。

伏線は「ルックバック」は4コマ。

「さよなら絵梨」はファンタジーひとつまみ。

本線は「ルックバック」は原点は回顧しつつも前に進むこと。

「さよなら絵梨」は多面性だと思う。

 

誰かがM-1の評論で「伏線つけておけば評価される風潮」と揶揄していた。

両作品ともに短い分量の中できれいに伏線が仕込まれている。

バズらせて読んでもらうには良い技法と思った。

 

ただ芯まで残っている部分は本線部分。

 

大げさじゃない感情表現

ジャンプとかでありがちな大げさすぎる感情表現がない。

国語力が弱い人にもわかりやすくするための喜怒哀楽丸出しの表現がない。

それが良い。

 

 

漫画のプレゼントサービス

本作とは関係ない話。

面白い漫画を見ると人に勧めたくなる。

その時に良い感じにプレゼント出来るサービスがあると売れそう。

 

ジャンプ+に登録して課金してもらうとか、Kindleインストールして購入してもらうとか、ハードルが高すぎる。

 

購入してSNSでリンク渡すと一定期間読めるようにするとか。

囲い込みにならず単価が安くなってサービス化する旨みが少なそう。

 

龍帥の翼 史記・留侯世家異伝

 

amazonのあらすじ

紀元前・中国……大陸は一人の男によって初めて統一される。後の世にはその本当の名より、初めての皇帝「始皇帝」の名で知られる絶対者の支配は苛烈を極めた。その支配者を討たんと、一人東に向かう男あり……名を張良(ちょうりょう)、字を子房(しぼう)という。後の天才軍師・張良を主役に据えた川原版“項羽と劉邦”堂々開幕!!

 

史実から逸脱しているからこそ面白い

本作は項羽と劉邦の戦いを、軍師張良を主人公に焼き直した作品。

全ては張良の手柄だったくらいの勢いでリメイクしている。

この作者の修羅の刻を見たことがあるなら、あの感じと言えばわかると思う。

 

史実と異なる部分が許せない人にはお勧めできない。

ちなみに自分は違う。

むしろ史実通りだと改めて本作を読む理由がない。

知っている話をどう再解釈しているか、そこが面白い。

 

面白さの分解:史実からの逸脱がもたらす効果

漫画の面白さは以下の3つの軸があると今は考えている。

それぞれの軸に沿って本作の面白さを考えてみる。

 

大きなストーリー(最終的にどうなるか)

コナンにおける黒幕は誰なのか。

ワンピースとはなんなのか。

恋愛漫画における二人は結局どうなるのか。

そういう最終どうなるのという軸。

 

この軸のおかげで数話構成の小さなストーリーがより楽しめる。

コナンが良い例。

毎回の探偵ものは正直ちゃちい。

が、少しずつ進む黒幕の話が良いスパイスになって読める。

 

さて、本作の話。

歴史なので最後は決まっている。

劉邦項羽に勝つ、さすがにここは覆せない。

となると歴史を知っている人はネタバレをくらっているようなものなのか。

この軸は機能していないのか。

そうではないと思う。

 

ここで焼き直しがいきる。

ラストをどういう解釈で迎えるのか、が気になる。

ヒーローものや恋愛ものを考えて欲しい。

基本はハッピーエンドだ(最近はバッドエンドもたまにあるが)。

ヒーローは最後にラスボスを倒す。

恋愛は最後はうまくいく。

それを予見していてもネタバレされているとは思わないだろう。

どういう風にラストを迎えるのか、が大きなストーリーだからだ。

 

小さなストーリー(数話完結の起承転結)

コナンにおける毎回の探偵もの。

バトルものなら1つの対戦。

恋愛ものなら1つのイベント等。

これが2つ目の軸と考えている。

 

本作は謎解き型となっている。

最後に解説が入るタイプ。

コナンとかはまさにそうだしバトル系でもよくある。

 

謎解き型を少し説明する(他で見た人は読み飛ばし可)

まず不利な状況が設定される。

密室殺人で犯人がわからない。

相手が強くて負けそうだ、とか。

その後に予想に反して良い結果となる。

犯人がわかったと言ったり、相手を倒したり。

最後にその解説を行う。

推理の説明や相手を倒せた理由などだ。

良い結果が起きるのと同時並行で解説が行われる場合もある。

これが謎解き型と呼ぶパターン。

 

では本作の話。

史実を知っている人は小さなストーリーも結果は知っている。

しかし謎解きの部分は焼き直されているので楽しめる。

むしろ史実を知っているので、状況説明が入ってきやすい利点がある。

 

状況説明が入ってきやすいというのは時短が好きな現代人向けに良い。

またコナンを例に出すが、設定を読むのがきついと感じたことはないだろうか。

その話にしか出てこない登場人物、密室の状況やアリバイ等を把握するのがきつい。

歴史ものはこの辺りのコストを下げれるのがメリット。

 

ストーリーと関係ない魅力(キャラや会話など)

アーニャがかわいいとかやり取りに深みを感じるとかそういう部分。

これは他の2点と比較して好みに依存する軸と思っている。

 

本作で言えばキャラや会話は他の作品と同じテイスト。

この作者の別の作品を読んだことがある人は好き嫌いを判断しやすいだろう。

ワンパターンで嫌いという人も見かけてことはある。

自分はめっちゃ好きというほどではないが、嫌いというほどではない。

 

 

※以下ネタバレ

 

 

 

 

ラストで死に際まで描くことの効果

話は変わってラストの感想。

本作では張良や黄石などは死に際まで描かれている。

これは歴史ものだからというわけではない。

この作者のやり方だ。

海皇紀という完全創作ものでも主要人物の寿命による死に際まで描いていた。

 

結構大きな特徴だと思ってる。

ほとんどの作品は完全に完結していても死に際までは描かない。

 

青春恋愛もので大人になった際の状況をちょろっと描く。

そういうアフターストーリー系とは明確に違うと捉えている。

方向性からして分けて捉えたい。

アフターストーリーは広がりを見せて夢を見せ続ける感がある。

死に際まで描くのは現実を突きつける感があるので真逆だ。

 

〇アフターストーリー系の例(G線上ヘヴンズドア)

 最終話で数年後に結婚式が行われ各キャラのその後が語られる

 

〇死に際の例(海皇紀)

 いまわの際まで描かれている

 

ここまで描かれる作品は少ない。

自分が思い出せるのは石渡先生のLOVEくらいだ。

死に際まで描かれると、自分は読後感にソワソワした感情が追加される。

その感じは嫌いじゃないけど、自分以外はどう感じてるか気になる。

 

WORST

 

amazonのあらすじ

悪名高き鈴蘭高校に入学した月島花を待ち受けていたのは、鈴蘭名物“一年戦争”だった!!不良(ヤンキー)まんがの巨匠が描く新・最強伝説!!

 

 

※以下ネタバレ

 

バトル系にありがちな要素を大胆に削除

・挫折も成長もない

 ケンカとは言え一応バトル漫画。バトルと言えば主人公の挫折と成長。しかし主人公は一度も挫折しない。新しい技を覚えることもない

 

 ケンカをしているのを周りが見て「また強くなってるな」と言われることはあるが、倒せない敵を倒せるようになるような成長はない

 

・インフレもジャイアントキリングもない

 序盤に登場するグリコというキャラが最強で同レベル以上のキャラは出てこない。

 

 全てのケンカ(タイマン)で強い方が勝つ。友達がやられたという理由等で強さが逆転することもないし、知略によって1回だけ上手く倒す、とかもない。

 

・人質等の卑劣な戦法が1度も使われない

 序盤の敵キャラである天地は残虐系で、謀略を使って多勢に無勢を作り出すことはあるが、弱いキャラや女性キャラを人質にボコるようなシーンは一切ない

 

 そもそも最後までクソキャラとして扱われるキャラが一人もいない。全員まとも。登場人物エグい数出てくるけど、基本全員なんらか男気がある。つまりキャラかぶり多数。

 

・一コマも女性キャラが出てこない

 作中には女好きのキャラも出てくるが、話に出てくるだけで女性キャラが出てくるシーンは1コマもない。寮のおばちゃんもおかまという設定。

 

 

なんだかんだ最後まで読んでしまう原因は何?

 上記で書いたように他の漫画で基本採用されている盛り上がりのための工夫を大胆に排除しているにも関わらず、30巻越えの作品で人気を博している。

 

 自分なりの推測としては大きな物語のチラ見せ」が成功の鍵と思っている。イメージとしてはコナンが数話完結の探偵モノなんだけど、ちょっとずつ黒づくめとの話がチラ見せされながら進んでいく感じ。

 

 本作も基本は数話完結の話だが、裏に用意されてる物語がチラ見せされながら進んでいく。序盤は「天地の逆襲」という物語で、少しずつ天地側の準備が整っていく様子がチラ見せされていく。

 

 このチラ見せがそれぞれの物語を味付けするし伏線やフリにもなる。そしてチラ見せしながら熟成することで、本番のカタルシスも上がる。

 

 「入学時のケンカでやられた天地がもう1度ケンカしにくる」という、言ってしまえばそれだけの話が、上記熟成によって何か壮大な物語のように感じてしまう

 

 中盤は「花の番長取り」、終盤は「萬侍との衝突」である。裏の用意としては徐々に質が悪くなっていると思っており、実際終盤は惰性で読んでる感があった。

 

良くなかった点はキャラの数

 かなり昔にクローズ(本作はクローズの続編にあたる)は読んでいたのだが、今回はクローズは読み返さず本作から読んだ。そうすると、キャラの数が多くて特に鳳仙とかは書き分けもきつく読みづらかった。武装もかなりきつかった

 

 この辺は続編ということで仕方ないところではあるが、本作だけ読もうという方には注意が必要。

 

 

 

 

 

「ひゃくえむ。」と「スプリンター」

100m走に関する新旧2つの漫画を同時レビューしてみる。

 

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俺はトガシ。生まれつき足が速かった。だから、100m走は全国1位だった。「友達」も「居場所」も、“それ”で手に入れた。しかし小6の秋、初めて敗北の恐怖を知った。そして同時に味わった。本気の高揚と昂奮を──。100mの全力疾走。時間にすれば十数秒。だがそこには、人生全てを懸けるだけの“熱”があった。

 

 

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日本有数の大コンツェルン・結城グループ。その後継者候補として、義父・豪太郎のもとで帝王学をしこまれる結城光16歳。そして、豪太郎の実の娘でありながら、父の援助を拒否して生きる、女子ナンバーワンスプリンター・水沢裕子16歳。まったく違う青春を選んだ二人だが、意地を張りあいつつも、やがて光と裕子は互いにひかれていく…。

 

 

何故同時レビューするのか

 まず、ひゃくえむ。を読む機会があった。読み終わった感想として「こういうとこの表現、昔からむずいと思ってたんだよな~」という部分(後述)があり「そういえばスプリンターだとどんな感じだっけ?」と思い、スプリンターも読んだ。

 

 同日に読んだので図らずも比較しながら読む形になり、どうせなら比較しながらレビューすることにした。

 

100m走の描写は難しい

 100m走は速いか遅いかだけなので、筆者が"意図的"に勝ち負けを決めたように見えてしまいがちだからだ。

 

 ある漫画の編集者が「素晴らしい作品ほど、巧妙に必然の産物だと思わせる」と言っていた。実際にあった話をそのまま描いただけ、と見えるくらいが良い。

 

 逆に「この展開はこの後を考えて無理やりこうしてるように見える」とか「このキャラはこんなこと言わなそうだけど、展開的に無理やり言わされてる」みたいに、作者の顔が見える=意図的に見えるのは冷める

 

 100m走の話に戻る。勝敗に意外性はあって良いが、納得感がないと意図的に見えてしまう。サッカーやバスケなら技や戦術で納得感を補強できるが100m走はそこが難しい。話は逸れるが、絵や歌でもここが難しくなりがち。

 

※以下ネタバレ

 

 

 

 

勝敗や速さに関する納得感の作り方

 両作品ともに基本は覚醒型。負けそうな前振りをしておいて、スタート直前に吹っ切れた顔になり、勝ち確フラグを感じさせるとか。走ってる最中の開き直ったような思考で覚醒したりとか。技術的な話は両方出てこない。

 

 ひゃくえむ。で良かったシーンとして、仲間の「がんばれ」を思い出して負けるシーンがある。普通なら仲間のエール⇒覚醒⇒勝利という流れだが、逆をついて仲間のエールを思い出して安心してしまい緩むという描写だ。

 

 逆をついてるのも良かったが、ふりも効いていた。大会の前に主人公とライバルの部活での仲間とのストーリーがある。主人公は成功しライバルは失敗していた。

 

 成功失敗の話がそれ単体で物語として成り立っていたし、本筋の勝敗のふりになっている構造が良かった。

 

 

ライバルのキャラ

 100m走という競技の単純性からライバルキャラも難しくなる。他のスポーツならポジション等で様々なキャラを出せるが、100m走はここも難しい。

 

 ひゃくえむ。の小宮。天才主人公に対する凡庸という位置づけで最初から最後までライバルだった。ここで1つ矛盾要素を抱えていたと思う。

 

 100m走のステージは上がっていくのに最初から最後まで同じ凡庸という位置づけの相手がライバル、という点だ。凡庸な奴が何故ステージを上がっていけるのかという問題が生じる。

 特にこの作品では幼少期の対決の描写で、凡庸でも一瞬に全てをかければ速くなれるという理屈で主人公と争った。にも関わらずその後もライバル小宮は高い水準で安定的に速い。最初と最後の敵を同じにしたいという作者の"意図"を感じてしまう

 

 スプリンターは最初ライバルとして登場してたキャラと最後に対決したキャラが異なる。ラストは金メダルや世界新を争うステージまで行くので、最後は黒人のキャラがライバルとなっている。

 

 こうなると、ひゃくえむ。で起きていた問題は起きないが、"中二"度という意味では少し落ちる。この辺りは過去記事の「リアル/中二」を参考にして欲しい。関係ないけど、中二病って言わなくなったね。

 

 

人生ストーリー

 100m走や絵や歌などの技術戦術で差をつけれないジャンルでは勝敗の納得感として心的な部分を使うため、人生を描くことが必須となる

 

 対比としてサッカーやバスケ等のスポーツ漫画では、ほとんどプライベートや人生を語らない漫画もある。スラムダンクとか初期のキャラ付け時以外では練習と試合以外ほとんど描写がない。

 

 両作品の話に戻るが、この部分で大きな違いがある。ひゃくえむ。は天才の挫折と再起を描いているが、基本は陸上に沿っている。スプリンターはもともと主人公が100m走の選手ではなく、事業でのサクセスストーリーもがっつり描いている。

 

 どちらが優れているということはないが、自分としてはスプリンターが好み。ひゃくえむは2019年開始、スプリンターは2004年開始ということでスプリンターはかなり昔の作品だが、事業でも陸上でも成功する主人公の描き方は現代の「なろう系」を感じさせる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二の打ち要らずの神滅聖女 〜五千年後に目覚めた聖女は、最強の続きをすることにした〜

 

 

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最強を決める戦い、神滅大戦に聖女ニルマは勝利したが、人類は滅亡寸前になっていた。
戦うべき敵と守るべき信徒がいなくなったニルマは、いつか世界が復興することを夢見て眠りに付く。そして五千年。目覚めてみれば、ニルマたち聖職者は後衛からちょろちょろと回復魔法を使うサポート役として軽く扱われるようになっていた。

 

※以下ネタバレ

 

面白かったのにまさかの3巻での打ち切り!?

 原作は先があるらしいので、コミック版3巻で終わり=打ち切りみたい。とは言え続きを出そうと思えば出せる状況なので是非続きが始まって欲しい

 

設定の説明がなく始まったのが好きだった

 最初に世界設定を説明せずに話を進めて、状況や話している内容等から設定がわかるというやり方。最初に謎を提示してそれを餌に進めるという手法に似てる。

 

 謎を提示して進める方法と比較して良いところは、謎を考えなくてよい点。後は設定を説明しなければ良いので、説明の手間とスペースが省ける点

 

 悪いところは設定の説明が一部省かれるので、わかりにくさが高まる。加減を間違えると付いていけない人が増えすぎることになる。その加減が難しそう

 

 客観的に自分の作品を見て、初見で読む人がこの説明でどこまで理解するかを把握する必要が生まれる。

 

不自然な自然」がうまく使われていたのが良い

 「不自然な自然」の説明はリンク先の記事を参照。

 具体的な部分としては、冒険者チーム内のメンバーに極端な力の差があったり、5千年前の常識が変わってたり(回復魔法を使う聖女とか)。

 以下のような意味でリアルさを感じる描写が多かった

異文化の風習や行動様式に対して違和感を感じながらも、

歴史の積み重ねでそういう風にも成りうるんだなあと

妙にリアルに感じることがあるように、

SFなどでそういう違和感のあるものを全く挿入しないと、

自然に見えなくなってしまうことがある。

 

何故打ち切りか、何がダメだったのか

 自分は好きだが打ち切りになったのなら、ダメな点がないかという視点で読み返してみた。あまり見つからなかった。敢えて言えば以下。

 

最初の設定説明がないのが難しくて読者が減った

 一番考えられるのはこれ。なろう系読者はわかりにくさに敏感そう。

 

序盤の冒険者との「助けて」「改宗するなら」の件は微妙

 強大な敵を目の前にして、冒険者は死の恐怖があるはずなのに、あのやり取りは起こらなそう。全体としてすっとぼけた雰囲気で進めようとするポリシーは感じられるが、あのシーンはやりすぎかも

 

国民、準国民とかその辺の設定はややこしさのわりに面白さが少ない

 設定が細かいとリアルさが出てよいのだが、この設定に関しては結構なページと文章量で描写してるが、その設定がフリになっているシーンがない。もしかするとこの後の展開で関係したのかもしれないが。